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第1部 一章 【財前姉妹】その2 第七話 知らない方がいいこと

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-03-19 10:00:00

20.

第七話 知らない方がいいこと

 ずっと受け身になっていたカオリにやっとチャンスが訪れた。

カオリ手牌 切り番

三伍六①③④④④23469西 ドラ四

 ドラはないけどドラの受け入れは整っている配牌リャンシャンテンだ。第1打は9索という人が多そうな手だが、カオリの選択は――

打西

 23469のこの5枚が活躍する手順をカオリはこの時イメージしていたのだ。

(ふうん。9索じゃないんだあ)マナミが後ろから見ながらそう思う。

(私なら二三四四伍六②③④④④234の形を目指すから9索とかは捨てちゃうけどな)と思いながら見ていたがそんなのはカオリだって同じだ、だがカオリは他の可能性も考えていた。

ツモ8

打①

ツモ7

打三

カオリ手牌 

伍六③④④④2346789

 いきなりいいのを2つ引いた。だがスルスルと手が進んだのは最初だけでここからカオリの手の成長が止まり、そうこうしてるうちにミサトの切った四萬(ドラ)を竹田アンナがポンする。

「うわ。ドラポンかあ」

 しかしその鳴きでカオリに届いた牌は最高だった。

ツモ赤5!

打六

 ピンズを引いてもソーズを引いても3面張が残る最強のイーシャンテンまで漕ぎ着けた。しかも一気通貫の目まである。

(あの配牌がイッツーとは……9索残しにこんな意味があったなんて…… カオリ凄いな)とマナミは感動していた。

 さあピンズを引いてテンパイか? それともイッツー確定の1索引きとか?

 カオリが引いてきたのは想像以上の牌だった。

ツモ赤伍!

「リーチ!」

「え、気合い入ってるなあ」とミサトが直感する。

「これはヤバそうだ」スグルもこのリーチには押せなかった。

「私はドラポンしてんだもんオリれないよっ!」とアンが勝負した牌は7索だった。

「ロン! リーチ一発赤赤…裏。12000!」

 強烈! しかしその時カオリの次のツモがポロリとこぼれ落ちる。

コロン

「あ!」

 そこにはソーズの1。鳳凰様がカオリを待っていた――

カオリ手牌

赤伍伍④④④234赤56789 7ロン

 カオリの手は見事だった。ただ、とてもいいアガリではあったがアンに放銃さえされなければ一発でド高め1を引いて親倍満だったのも事実。

 鳳凰ツモの8000オールを逃したカオリはせっかく素晴らしい12000をアガったのに落胆してしまった。知らない方がいいこともある。テンションが下がったカオリに先程までの集中力は無く、甘い牌をスグルに下ろしてしまう。

「お、チー。やっと甘い牌が出たね」

(しまった!)

「カオリちゃんもまだ子供だね。こんなことはよくあるよ。この程度で集中力切らしてたらプロでは通用しないぞ」

「ユウに聞いたんですか?」カオリはスグルに自分がプロ雀士を目指していると話した記憶はない。というか、生涯雀士とは誓ったが、それがイコールプロになることではないし、つまり誰にも自分がプロを目指しているとは言って無い気がするのだが……。

「なんとなくだよ、キミたちこそプロ雀士になるべきだ、そう言う本気度があるだろ。だから目指してて欲しいし、結局はそうなると思ってる。……おっ、ツモ!」

 急所が鳴けたスグルはすんなりと1000.2000をツモ。

 次局はダマの12000をカオリから討ち取り突き抜けた。

(やっぱり職人は強いなあ。当たり前だけど格が違うわ)そう皆が感じていたが、しかしだからと言って諦めてる奴はこの中には1人も居なかった。

 麻雀とは運に大きく左右されるゲームだ。それでありながら、技術介入の余地がある場面がかなり多いのも面白い点で。しかし技術を駆使しても結果勝てるとは限らない理不尽さもある。

 例えるなら勉強だ。

 学校で習う勉強は社会に出ても役に立たないと言う事が多い。しかし役に立つかも知れないこともある。

 ひとつだけ確実なのはそれでも勉強しておかなければ知性を磨くことは出来ないし、なにもしなければ無能無知なままだと言うこと。それでも運だけでラッキーする人生もあり得るがそんなラッキーだけの人生に満足感が得られるかは疑問である。

 麻雀も、どんなに鍛えても勝てるとは限らないが鍛えなければレベルはあがらない。素人のままだ。それでもまぐれで勝つ事はあるがそんな下手うったけどまぐれ当たりで勝ちましたみたいな勝利で楽しかったとはなかなかなれない。

 しっかり考えて、鍛錬して、真剣に取り組んだ研究の成果で勝ち抜くからこそやめられない楽しさがあるんだ。

 しかし、今は運だけでもいい。実力で届こうなどと無理な事は言わないから。スグルさんに勝ちたい! 誰にも、負けたくない!

 少女達は全員そう思っていた。

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    50.第三話 知っているから分からない マナミは力を付けてきたので最近はずっとラシャの付喪神の出番はなかった。もう、現段階のステージでは見てなくても大丈夫だなと。 すっかり出番を失った付喪神だが、それこそが望んだことなので神様も満足して休んでいた。もう、マナミは現状放っておいても強い。とは言えまだ経験不足。分からないことはたくさんある。 マナミは分かる範囲で間違えないというだけだ。成長したらそれと共にまた分からない事は増えていく。 麻雀は知れば知るほど正解が難解に思えてくる。それは麻雀を知れば新しい解法を知ることにもなるから。 今まで足し算引き算しか知らなかった人にかけ算を教えるようなものだ。新しい解き方に気付くことこそが成長で、それを使いこなす為に更なる鍛錬が必要となる。  つまり、誰よりも知っているから分からない。そういう現象が麻雀にはある。 早くて、正解であっても、浅いのであれば最強とは程遠いということ。最高等級な正解を探求し、相手の力量も把握し、その中から今使うべき選択、ターゲットに対して最も効果的と思われる最適打を導き出せて初めて一流雀士への道のスタート地点に立てるというものだ。 とは言え、マナミはずいぶんと強くなった。なのにマナミはスコアをもっと伸ばしたいと常に思っていた。それは自分より上のスコアを反対番のカオリが出すから。(負けられない! 姉として、ライバルとして、そして…… プロとして! ……カオリにだけは負けたくないっ!!) そんな思いを抱いていた。 そうとは知らずカオリはwomanに習いながら勝ち続けていたのだが。◆◇◆◇ 一方、ミサトは麻雀部にプロ麻雀師団入りしたことを報告に来ていた。「というわけでー、私は麻雀部の誓いでもある『生涯雀士』の

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    49.第二話 財前プロの初出勤 土曜日。今日はカオリが午前出勤の日である。そして、プロ雀士になってから初の出勤日でもあった。「「カオリちゃん! プロ試験合格おめでとう!!」」 出勤したらみんなから祝福された。時給も980円から1200円になるんだという。「ありがとうございます。でも、なんだかまだ実感がないです。リーグ戦も始まってないし。私がプロ雀士かあ…… ウソみたい」「カオリちゃんはプロだよ。なんかそう、オーラを感じるもの」「あは、ありがとうございます」(それはwomanのことかな? 勘のいい人にはわかるのかしら)「じゃあさっそくだけどカオリさん本走頼めるかな」「もちろんです!」「ああ、今日からは財前プロか」「やめてくださいよ店長。今まで通りカオリでいいですよ。それに財前プロだとマナミもだし」「わかったよ。それじゃ1卓で立卓準備してください」 そう言うと店長はゲームシートに時間と名前を記入し始めた。 場決めの牌を引いてゲーム開始!『ゲーム、スタート』 自動卓がゲーム開始の音声を上げる。「「よろしくお願いします!」」 カオリは北家でスタート。「お飲み物はよろしいですかー。みなさんお飲み物のご注文はよろしいですかー」そう聞きながら立番の店長が卓を回る。「あ、ごめん、ケータイの充電お願い」大体この時飲み物以外の注文が入ったりする。今来たばかりの人に食べ物の注文をされる時もある。外で食べてから来ればいいのに。その方が安く済むのにな。といつも思う。タバコの注文をされる時もあるが(それは買ってから来店してよね)と思う。そもそも私は買いに出れないし。年

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第一話 3つの上達方法

    48.ここまでのあらすじ カオリ、マナミ、ミサトの3名はプロ麻雀師団のテストを受けて見事合格。今期から入会し、プロ雀士として活動することになる。 一方ユウは競技プロという道ではなく麻雀教室講師という道を目指した。【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。神の力を宿す運命の子。財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『ひよこ』という場末雀荘のメンバーをしていた。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているが全く気にしていない。井川美沙都いがわみさと通称ミサト麻雀部いちのスタミナを誇る守備派雀士。怠けることを嫌い、ストイックに生きる。中條八千代なかじょうやちよ通称ヤチヨテーブルゲーム研究部所属の穏やかな少女。理解力が高く定石を打つならコレという判断を間違えない。三尾谷寛子みおたにひろこ通称ヒロコテーブルゲーム研究部所属の戦略家。ゲームの本質を見抜く力に長けていて作戦勝ちを狙う軍師。倉住祥子くらずみしょうこ通称ショウコ竹田アンナの同級生。ややポッチャリ気味の美少女。見た目通り、よく食べる。学力は高く常に学年上位だがそんなことには全く興味がない。天才肌。浅野間聡子あさのまさとこ通称サトコショウコの親友。背が高くてガッチリした体格。中学時代はバレー部で活躍したが高校からは料理研究部に興味を持ち運動部はやめることに。運動神経よりも戦略や読みで活躍する頭脳明晰な元セッター。womanカオリにだけ届く伍萬の付喪神の声。いつも出現するわけではなく、伍に触れた時だけ現れては助言をしてカオリを勝利へ導こうとする。その5第一話 3つの上達方法 佐藤ユウはメキメキと腕を上げていた。最近、倉住ショウコと浅野間サトコがユウのような戦術家になりたいと言い毎日のように教わりに来るのでコイツら受験生なのに学校の勉強は大丈夫

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その4 第十二話 私のなりたいプロ

    47.第十二話 私のなりたいプロ 白山詩織(はくざんしおり)は帰りたかった。(はあーー。なんで私がこんな仕事をしなきゃなんないのかしら。試験官なんて私の時はもっと重鎮が出てきてやってたじゃない。なんで私に招集がかかるのよ! でも、これをやれば他の行事を今年はパスしてもいいって言われちゃあやるしかないか…… パーティに出て女王位おめでとうとか壇上で言われたりすんのは面倒くさいし、今年のパーティは休ませてもらうわ) そう思ってシオリは今回のプロテストで試験官を務めた。名簿に目を通してみると財前という名前が2人いることに気付く。(姉妹かしら、珍しいわね) 試験会場の椅子や長テーブルの設置を手伝ったりして朝早くから忙しいシオリ。(ったく、何で私が) そう思いつつも女王シオリは汗をかきながら自分の仕事をしっかりやった。────10時00分 試験受付が始まった。今度は入り口で記入をお願いする係をシオリが担当。もう疲れたから座ってられる仕事をしようと思ったのだ。そこに一番手で受付に来たのは派手な髪色をした、それでいてライオンのような堂々たる佇まいを見せる立ち姿の美しい美少女だった。(おお…… 美しさの中に知性と力を感じさせる。強者の雰囲気があるな。この子は合格しそうだ)とシオリは一目で思った。「はい、こちらにお名前を記入して右手奥から階段を上がり2階の手前左の部屋へ行って下さい」「はい」井川美沙都 それから数分後また別の美少女がきた、しかも今度は2人だ。「はい、こちらにお名前を記入して右手奥から階段を上がり2階の手前左の部屋へ行って下さい」「はい」「はい」財前真実財前香織(

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その4 第十一話 イチゴサンド

    46.第十一話 イチゴサンド 金色に近い茶髪をした少女は車窓から見えるのどかな風景を立ちながら見ていた。(落ち着くわ…… どこまでも緑。時々花が咲いていて。少し前まで東京でコンクリートばかり見て暮らしてきたのが嘘のよう。やっぱり人間は自然の中が落ち着くようになっているのかしら。人間である前に動物ってことね) そんなことを思いながら大洗鹿島線(おおあらいかしません)で鹿島神宮(かしまじんぐう)へと向かっていたのは来週プロテストを受ける井川ミサトだ。 鹿島神宮は勝負の神様。麻雀プロテストの合格祈願にはもってこいなのである。 車内はガラガラに空いていて座席は選び放題だったが例によってこの少女は座らない。常に肉体を鍛えている。鍛えてはいるのだが、食べ物は好きな物を食べたい。そこは譲りたくないので、せめて運動量は多くしていく。ミサトはそういう考えだった。 美味しいものを食べることすら我慢して鍛えるのは違うような気がするのである。そこは食べようよと。なので当然、今回も鹿島神宮で祈願を済ませた後はアリスラーメンに行くつもりだ。けど、今回の目的はラーメンではなくフルーツサンドだ。 正直言って迷った。ラーメンを食べるべきかどうか。両方ともというのは大人の考えで、まだ学生のミサトにはラーメンもフルーツサンドもというのは贅沢過ぎた。 前回は店内でみんな一緒にラーメンという計画だったので選択肢に無かったが今回は一人旅だ。無人販売所のフルーツサンド…… 食べてみたい! しかし、ラーメン美味しかったし…… でも、イチゴサンド食べたいし……。決定出来ないまま長考中のミサトだったが到着したら選択の余地がなかった。なぜなら現在時刻14時55分。昼営業のラストオーダーは14時45分までなのである。さすがに夜営業の17時までは待っていられない。無人販売所なら24時間あいている。(よし、運命がイチゴサンドを

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その4 第十話 スグルの新人教育

    45.第十話 スグルの新人教育 スグルの働く鶯谷(うぐいすだに)の雀荘『富士』に新人(と言っても48歳。雀荘経験はあるが過去に2度迷惑かける形で辞めている)が入った。 新人の名は久本一夫(ひさもとかずお)。彼はそれなりに仕事をやった。まるっきりダメというわけでもない。だが、50分に出勤する奴だった。 別にそれ自体は責めることではない。従業員規定には55分には着替えて挨拶を終えた状態にするようにとあるのでギリギリ間に合っている。 ……が、問題は反対番との交代の時に起きた。 新人のカズオはその日21時30分スタートの卓に着いていた。そこに、遅番のスグルが出勤する。「おはようございます!」 するとカズオはこれはしめたとばかりに「ここ行けますよ!」と交代を主張してくる。東1局一本場21000点持ちの北家だった。つまり既に4000オールを引かれている。 優しいスグルはそこを交代するが、それを直後に出勤して状況を把握したマサルがカズオを呼び出す。「久本さんはなんでここスグルに打たせてんだ。しかも失点しておいて。スグルの方から交代すると言ったのか?」「えっと、違います……」「久本さんのいつもの出勤時間は50分なんだから30分スタートのゲームは交代してもらう訳にいかねえとは思わないのか?」「……え」「え、じゃねえ。いいか、この恩をスグルに返すまでは必ず30分に出勤してきなさい。今後50分に出勤とかさせねえからな。したら遅刻として扱う。当然ですよね」「そんな」「あなたはそうやって自分にだけやたら甘くしてきたから集団で不和をもたらして職場を転々としてきたんだよ。全て久本さん自身の責任だ。あまちゃんなんだよ。おれをあんまり怒らせるなよ。いいか、自分はもう歳だから生き方は変われないとかは絶対に言うな! おれはあなたのために今言うぞ。人生はまだ続くしあなたはずっとあなた

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